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ピン歯車をフィギア部に露出させた作品の意図とは?

執筆者の写真: Hal FurutaHal Furuta

更新日:2020年10月22日


18-19世紀の欧州にみるオートマタや日本のからくり人形は機構部、つまりどのようにフィギアが動くのかという“カラクリ”の部分が隠されてきました。 しかし、ポール・スプーナーがつくる現代オートマタ作品は、あえて機構部をあらわにし、上部で動くフィギアとそれを動かす仕組みを一体化させています。

しかも、機構部を露出させることで見る者への違和感を与えないどころか、フィギアと一体化した造形の美しさに新鮮さを感じるほどです。 さて、今日ご案内したいのは、この「モンマルトルのアヌビス」に関して言えば、彼らのデザインにおけるルールともいえる、フィギアと機構部の分け隔てという約束事が守られていないという点なのです。 おそらくは、ピン歯車を機構部に収めることは簡単なことだと思いますが、あえてそれをしなかった作家の心の内を推理したいと思います。 この作品の機構に関する思想は大変に優れており、アヌビスの右手がコーヒーカップを回し、手袋をつかんだ左手を持ち上げハエに向かって振り下ろす、ハエは左手の動きに合わせてひょいと逃げる、概ねこの3つの作業を行うのに考えうる最小の部品点数で実現しています。 優れた設計思想である作品でありながらピン車の半分をフィギア=アヌビスの足元に露出させたのはなぜだったのか? おそらくはピン歯車を機構部のある下の箱に収めると、機構部に余計な空間ができてしまうからです。今、豊洲の地下空間が世間で問題になっていますが、意味のないスカスカな空間が出来上がることを作者が嫌がったのだろうと思います。 そうなると、フィギアと機構部が一体となった造形美という作家の設計思想からかい離する恐れが出るわけです。 実際にこの作品下部を縦方向に広げた場合、スカスカの空間がどうにも目障りになりせっかくの作品バランスを崩すことに繋がったでしょう。 やむにやまれる措置だったかも知れません。知る限り、このような作品は後にも先にもこれだけです。 勿論、それが良くないというつもりはなく、むしろフィギア=舞台=に歯車が絡むデザインがもっとあってもよかった、そこから新たな発想の、デザインを生み出す可能性があったのではないか?と思うと少し残念な気持ちにさえなるほどなのですから。

MOLEN

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